終わりなきゲーム:AIはどのように新たなゲームカテゴリーを生み出すか

Jonathan Lai

弊社ブログ記事、『ゲーム産業における生成AI革命』(the Generative AI Revolution in Game)の中では、初期的な考察としてAIツールがどのようにゲームクリエーターの効率を上げるかに注目した。これは、AIによってこれまでよりも迅速に、かつ大規模にゲームを制作できるようになるという話だ。もちろんそうなることは間違いないものの、AIはゲーム制作のやり方を変えるだけでなく、ゲームの本質そのものを変える。長期的にはそこに最も大きなビジネスチャンスがある、というのが私たちの考えだ。

生成AIの助けによって、これまでにないAIファーストのゲームカテゴリーが生まれ、既存のジャンルが劇的に拡大するはずだ。その可能性を、私たちはとても楽しみにしている。AIはこれまでも新しいゲームプレイの形を生み出すことに一役買ってきた。かつてのRogueによる手続き型生成ダンジョン(1980)から、Half-Lifeのfinite-state machines(1998)、またLeft 4 DeadのAI game director(2008)まで、それが続いてきた。このところの深層学習の技術発展によって、ユーザープロンプトと大規模なデータセットに基づく新しいコンテンツ制作が可能になり、ゲームはさらに変化している。

まだ初期ではあるものの、AI主導のゲームプレイにおいて私たちが面白いと思っている領域がいくつかある。生成エージェント、パーソナル化、AIストーリーテリング、ダイナミックワールド、そしてAIコパイロットなどだ。こうしたシステムがうまく結びつけば、かなりの長期にわたってプレイヤーを楽しませ、没頭させ、繋ぎ止めるようなAI主導の新たなゲームカテゴリーが誕生してもおかしくない。

生成エージェント

シミュレーションゲームというジャンルが生まれたのは1989年。MaxisのSimCityがはじまりだ。このゲームでプレイヤーは仮想の街を作り、運営する。現在もっとも人気のあるシミュレーションゲームはThe Simsで、世界中で7000万を超えるプレイヤーが、「シム」と呼ばれる仮想世界の住人として日々生活を送っている。デザイナーのウィル・ライトはこのゲームを「インタラクティブなドールハウス」と表現した。

大規模言語モデル(LLM)が今どきの人との関わり方を教えてくれることで、エージェントの行動がより生身の人間らしくなり、シミュレーションのジャンルが劇的に発展する可能性がある。

今年のはじめにスタンフォードとグーグルの研究者チームが、『ゲーム内のエージェントに大規模言語モデルをどう利用できるか』という論文を発表した。博士過程の学生であるJoon Sung Park率いる研究チームは、ピクセルアートのサンドボックスに25人のシムのようなエージェントを住まわせた。そして、ChatGPTと「LLMを拡張してエージェントの経験をすべて自然言語で記録し、その記憶を合成し、俯瞰的に考察したり、場面に応じてその記憶を取り出して行動を計画できるようなアーキテクチャ」を使って住人の行動をつかさどってみたのだ。

その結果、シミュレーションゲームに起きうるワクワクするような未来の姿を垣間見ることができた。まずやってみたのが、あるエージェントが「バレンタインのパーティーを開きたい」という提案をひとつ投げてみるという実験だ。そのエージェントは誰の助けも借りずにパーティーの招待状を配り、新しい友達を作り、それぞれにデートの相手を探して、2日後のパーティーに一緒に来てもらうよう誘っていた。

そんな行動ができるようになったのは、LLMがソーシャルウェブ(ネットを介した人付き合い)のデータを学習し、対人関係のさまざまな場面で人間がお互いにどう会話し、振る舞うかをモデルの構築要素に組み入れたからだ。すると、こうした反応が、シミュレーションゲームに代表されるインタラクティブなデジタル世界の中で驚くほど一般的な日常生活にありがちな振る舞いを引き起こすのだ。

そうなると、プレイヤーの体験が変わる。よりゲームに没頭できるようになる。The SimsやSFコロニーのRimWorldの醍醐味は、思いがけないことが起きたり、感情の高まりや落ち込みを乗り越えるところにある。エージェントの振る舞いがソーシャルウェブの集積に導かれるとすれば、シミュレーションゲームはデザイナーの想像力を反映するだけでなく、予測のできない人間社会のあり方も反映するようになるかもしれない。そんなシミュレーションゲームを観る行為は、脚本ありきの今のテレビ番組や映画にはない、ある意味で次世代の『トゥルーマン・ショー』のような面白さを与えてくれるかもしれない。

想像上の「ドールハウス」で遊んでみたいというプレイヤーの願いに答えて、エージェントを自分仕様にカスタマイズすることもできる。プレイヤーは自分自身を模倣することもできるし、仮想のキャラクターを模倣して理想のエージェントを作ることもできる。Ready Player Meを使えばセルフィーから自分自身の3Dアバターを作ることができ、9000を超えるゲームやアプリに自分のアバターを持ち込める。AIキャラクターのプラットフォームであるCharacter.aiInWorldConvaiでは、独自のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)を作ってそれぞれの生い立ちや性格や振る舞いを設定できる。ホグワーツ魔法学校でハリー・ポッターのルームメイトになってみたい? おまかせあれ!

こうした自然言語能力によって、エージェントとのやり取りの方法も広がってきた。今ではEleven Labsの文章音声変換モデルを使って開発者は本物に近い音声を作り出せるようになった。Convaiは近頃Nvidiaと組んで、AIのラーメン屋NPCが自然な声でプレイヤーと対話し、会話に合わせて表情も作っているバイラルなデモを公開した。AIコンパニオンアプリのReplikaを使えば、音声、動画、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)を通してコンパニオンと会話ができる。そのうちに、プレイヤーが外出中でも電話やビデオ通話を通してエージェントに連絡を取り、コンピュータの前に戻った時によりゲームに没頭できるようなシミュレーションゲームができる日も遠くないかもしれない。

とはいえ、ザ・シムズの完全生成版が実現するまでには、まだ解決すべき難問が多く残っている。データ学習を行う際に大規模言語モデルにバイアスがかかることは避けられず、それがエージェントの振る舞いに影響を与える。24時間365日休みのないライブゲームのためにクラウドで大規模なシミュレーションを走らせる費用はとても負担できるものではない。研究チームが25人のエージェントを2日間動かすだけでも数千、数万ドルもの演算費用がかかった。モデルのワークロードをデバイスに移すアイデアは有望だが、まだはじまったばかりでどうなるかわからない。これまでは親密であれど一方的だったエージェントとの関係性についても、新しい規範が必要になるだろう。

ただ、ひとつだけはっきりしていることがある。生成エージェントが今、ものすごく求められているということだ。最近の調べでは、AIのNPCを試す計画を立てているゲーム制作会社は全体の61%にのぼる。AIコンパニオンはそう遠くない将来、当たり前の存在になり、私たちの日常生活のいたるところに入り込むだろう。シミュレーションゲームというデジタルな箱庭を通して、私たちは楽しんだり驚いたりしながらお気に入りのAIコンパニオンと触れ合うことができる。長い目で見ると、シミュレーションゲームのあり方そのものがおそらく変化し、こうしたエージェントはただのおもちゃではなく、友達や家族や仕事仲間やアドバイザーや恋人がわりになるかもしれない。

パーソナル化

パーソナル化されたゲームが最終的に目指すところは、プレイヤーそれぞれに独自のゲーム体験を提供することだ。例としてまず、キャラクター作りからはじめてみよう。最初のDungeons & Dragons(D&D)からMihoyoのGenshin Impactまで、ほぼすべてのRPG(ロールプレイングゲーム)の柱になるのがキャラクター作りである。ほとんどのRPGでは、あらかじめ決まったオプションの中からプレイヤーが外見や性別や階層を選べるようになっている。では、あらかじめ決まったオプションではなく、それぞれのプレイヤーがゲーム攻略において自分だけのキャラクターを作れるとしたらどうだろう? Stable DiffusionMidjourneyのような文章から画像を生成するモデルにLLMを組み合わせれば、そのプレイヤーだけのキャラクター作りが可能になる。

SpellbrushのArrowmancerはGAN(敵対的生成ネットワーク)ベースのアニメモデルを使ったRPGだ。プレイヤーは、外見も戦闘能力もすべて独自のキャラクターでパーティー(チーム)を作りあげることができる。パーソナル化は収益モデルの一部にもなっている。プレイヤーは、AIで生成したキャラクターをガチャ(アイテム課金)の内容に取り入れ、重複したキャラクターを引き入れてチームを強化することもできる。

ゲーム内アイテムもまたパーソナル化することができる。たとえば、特定のクエストを終了したプレイヤーだけに、独自の武器や防具を生成することも可能だ。Azra GamesはAIが発案し生成する大量のゲームアイテムやさまざまなオブジェクト(小道具や背景など)を取り揃え、多様なゲーム攻略体験を提供している。AAAタイトルを開発するActivision Blizzardが発表したのが、Blizzard Diffusionだ。Blizzard DiffusionはStable Diffusionを真似た画像生成アプリで、さまざまなキャラクターのコンセプトアートや服装を生成してくれる。

ゲーム内の文章や会話もまた、パーソナル化がすぐそこまできている。プレイヤーが獲得した肩書きや状態(「殺人罪で指名手配中!」など)をゲーム内の看板に反映することも可能だ。LLMを使ってエージェントに特異な性格を持たせ、プレイヤーの振る舞いに反応できるよう―たとえばエージェントに対してプレイヤーがこれまでどんな振る舞いをしたかによって対話の中身が変わるように―、NPCを設定することもできるだろう。AAAゲームではすでにこのコンセプトがうまく実現されている。MonolithのShadow of Mordorはネメシスシステムを取り入れ、プレイヤーのプレイ内容次第で悪役の個性と過去の経緯が異なってくる。こうしたパーソナル化要因によってゲーム攻略がそれぞれ独自の体験となる。

ゲームパブリッシャーのUbisoftが近頃発表したのが、LLMを使った対話ツールのGhostwriterだ。Ubisoftのライターはこのツールを使って、プレイヤーを取り巻く世界を彷彿させるような背景のチャッター(キャラクター同士の雑談)とバーク(叫び声、吠え声など))を作り出している。Ghostwriterのようなツールを微調整すれば、バーキングをパーソナル化できるようになる。

プレイヤーから見たパーソナル化の利点は2つある。よりゲームに没頭できることと、リプレイの価値が高まることだ。SkyrimGrand Theft Auto 5のような作り込まれたオープンワールドのRPGゲームにおけるロールプレイMOD(ユーザーによるゲーム改変)の人気がずっと絶えないのは、パーソナル化された物語を人々が求めている証拠である。GTAはいまだにオリジナルよりもロールプレイサーバーのプレイヤー数が増えている。将来は、長期にわたってプレイヤーを惹きつけ留めるために、パーソナル化されたシステムがすべてのゲームでライブオペレーションに欠かせないツールになることが予想される。

AIによる筋書きとストーリーテリング

もちろん、キャラクターと会話だけでいいゲームが作れるわけではない。生成AIを利用すれば、より優れた、よりパーソナル化されたストーリーを作れる可能性がある。

パーソナル化されたストーリーの元祖と言えばDungeons & Dragonsである。このゲームでは、ダンジョンマスターを称する人物が物語を紡ぎ、仲間に語る。仲間はその物語の中の各自のキャラクターをプレイする。最終的なナラティブは、部分的には即興劇となり、部分的にはロールプレイとなるため、各プレイヤーの体験は独自のものになる。パーソナル化された物語を人々が求めている証拠に、D&Dは今かつてないほど人気で、デジタルとアナログの両方で過去最高の売上を記録している。

今、多くの企業がD&Dのストーリー作りにLLMを利用しはじめた。何時間でも付き合ってくれるAIのストーリーテラーのおかげで、プレイヤーは自分の作った世界や大好きな世界で好きなだけ時間を過ごせるようになる。Latitudeが2019年に発表したAI Dungeonは、AIがダンジョンマスターを務める、オープンエンドでテキストベースの冒険ゲームだ。また、OpenAIのGPT-4を微調整してD&D をプレイしているユーザーもいて、有望な結果が出ている。Character.AIで一番人気の機能はテキストアドベンチャーゲームである。

Hidden Doorはそれをもう一歩進め、機械学習モデルが特定の素材―たとえば Wizard of Oz―を学習することで、プレイヤーは確立されたIPユニバースの中で冒険を楽しむことができる。そしてIP所有者の協力により、新しいインタラクティブな形式でブランドを拡張できる。映画を見たり本を読んだりしたファンが、そのあとすぐさま大好きな世界でカスタマイズされたD&D的な冒険を続けることができるのだ。ファン体験を求める声は高まっている。2次創作ライブラリーとして世界最大のArchiveofourown.orgとWattpadには、この5月だけでそれぞれ3億5400万人と1億4600万人がウェブサイトに訪問した。

NovelAIは自社LLMのClioを開発した。Clioを使えばサンドボックスモードで物語を作ることができ、作家のスランプを克服することに役立てられる。特に繊細な書き手に合わせて、作風を微調整することも可能だ。書き手自身の作風で生成することもできるし、H.P.ラブクラフトやジュール・ベルヌといった有名作家の作風にも生成できる。

ただし、AIに物語のすべてを任せられるまでになるには、まだ越えるべき壁は多い。オープンエンドのAIはすぐに脱線するし、ゲーム設定上それが面白くもあるが手に負えなくもなる。優れたAIの書き手を育てるには、良い物語の枠組みを設定するために人の手による多くのルールが必要になる。記憶と一貫性も大切だ。物語の書き手は、以前に何が起きたかを覚えておいて、事実においてもスタイルにおいても矛盾がないようにしなければならない。クローズドソースのLLMの多くはブラックボックスなので、解釈可能性に問題がある。ゲームデザイナーが体験をより良いものにするには、なぜシステムがそんな行動をしたかを理解する必要がある。

こうした壁を乗り越える努力がなされている一方で、人間の書き手を助ける共同執筆者としてのAIの活用はすでに進んでいる。数多くの作家がChatGPTの助けを借りて自分だけの物語を紡ぎ出している。エンターテイメントスタジオのScripticはDALL-E、ChatGPT、Midjourney、Eleven Labs、Runway といったツールに人間の編集者のチームを組み合わせて、ユーザーそれぞれに合わせたインタラクティブな冒険番組を制作し、ネットフリックスで配信している。

刻々と変化する世界を作り出す

文章で書かれた物語も人気はあるが、ゲーマーの多くは視覚に訴える物語が生まれることを望んでいる。ゲームにおいて生成AIの本領が発揮されるのはおそらく、プレイヤーが何時間いても飽きないような生き生きとした世界を作り出すところだろう。

今はまだ実現できていないが、プレイヤーがゲームを進めるにしたがってリアルタイムでコンテンツやレベルが変わるような未来はよく話にのぼる。そんな未来のゲームに近い例として語られるのが、SF小説『エンダーのゲーム』に登場するマインドゲームだ。このマインドゲームはAIによって指揮され、それぞれの生徒の行動や心理をAIが読み取ってそれに応じてゲームの内容が変化する

今、マインドゲームに一番近いのが、ValveのLeft 4 Deadシリーズだ。Left 4 Deadではザ・ディレクターと呼ばれるAI監督(AID)を使ってゲームのスピードや難易度を調整できる。敵(ゾンビ)が登場するポイントは決まっておらず、プレイヤーのステータスやスキルや居場所に応じてAI監督がさまざまな場所に異なる数のゾンビを配置し、各ステージでそれぞれに独自のゲーム体験を提供できる。また、AI監督が異なる視覚効果や音楽を使ってゲームの雰囲気を作ることができる(だから怖すぎる!)。「プロシージャル・ナラティブ」と呼ばれるこのシステムを生み出したのはValveの創業者であるGabe Newelだ。名作の誉高いEAのDead Spaceのリメイク版はこのAI監督システムの一種を使って、恐怖感を際立たせている。

今はまだSFのように思えるが、生成モデルが改良され、処理能力とデータにふんだんにアクセスできるようになれば、AI監督が怖さを倍増させるだけでなく世界そのものを作り出せる日がいつかやって来る。

機械がゲームのステージを作り出すというコンセプトは新しいものではない。 SupergiantのHadesから BlizzardのDiabloからMojang’s Minecraftまで、現在人気ゲームの多くはプロシージャル(手続き型)生成を利用している。人間のデザイナーが決めた方程式と一連のルールに従って、ランダムにレベルを作り出し、プレイスルーを毎回変えているのがこの手法だ。プロシージャル生成を支援するソフトウェアは数多く開発されている。UnityのSpeedTreeを使えばバーチャルな紅葉が生成できる。あなたもAvatarのPandoraの森やElden Ringの風景で、すでに見たことがあるかもしれない。.

UIの中でプロシージャルアセット生成ツールとLLMを組み合わせることもできる。Townscaperではプロシージャルシステムを使ってプレイヤーから2つのインプット(ブロック配置と色彩)を取り込み、即興で美しい街の風景を作り出す。TownscaperのユーザーインターフェースにLLMが加わったらどうなるか、想像してほしい。自然言語プロンプトによってより微妙なニュアンスを反映した美しい街が描けるはずだ。

機械学習を組み合わせた拡張プロシージャル生成の可能性に胸を躍らせている開発者は多い。スタイルの似た既存レベルを機械学習し、人に見せられるような最初のドラフトを反復的に生成できる日が来るかもしれない。今年のはじめにはShyam Sudhakaran率いるコペンハーゲン大学のチームがMarioGPT―オリジナルのスーパーマリオ1と2のステージを機械学習して新しいレベルを生成するGPT2ツールを作ることに成功した。この分野ではしばらく前から学術研究が行われていて、2018年にはすでにシューティングゲームDOOMで敵対的生成ネットワーク(GANs)を利用してレベル生成を行うプロジェクトが存在した。

プロシージャルシステムとの組み合わせによって生成モデルによるアセット創作のスピードを大幅に早めることができるだろう。すでにAI支援のコンセプトアートやストーリーボード作りには文章画像生成モデルが使われている。MainframeでVFXの責任者を務めるJussi Kemppainenは、どのようにMidjourneyとAdobe Fireflyを利用して2.5次元のアドベンチャーゲームの世界とキャラクターを作ったかをこちらのブログで紹介している。

3D生成についても数多くの研究がなされている。Lumaではニューラルラディエンスフィールド(NeRFs)を使ってiPhoneの2D画像から写真のようにリアルな3Dアセットを作ることができる。KaedimはAIと人間の介入による品質管理を組み合わせて、製品への使用準備が整った3Dメッシュを作成する。すでに225社を超えるゲーム開発会社がこれを使っている。CSMは最近、動画と静止画像の両方から3D modelsを生成できる独自モデルを発表している。

長い目で見て、誰もが実現したい夢はAIモデルを使ってリアルタイムで刻々と変化する世界を作り出すことだ。あらかじめ決まった設定ではなく、ニューラルネットワークを使ってゲームのすべてがリアルタイムで生成されていくような未来が見える。すでに、NVIDIAのDLSS technologyは消費者向けGPUを使って即興で高解像度のゲームフレームを生成できるまでになっている。ネットフリックスで「インタラクト」ボタンをクリックすると、映画のすべてのシーンがプレイヤーそれぞれに合わせて即興で生成されるようになる日が来るかもしれない。そんな未来ではゲームと映画は見分けがつかなくなるだろう。

しかし、リアルタイムで自律的に世界を生成できたからといって、それだけでいいゲームになるとは限らない。1000京を超える惑星をプロシージャー生成したNo Man’s Skyが酷評されたことでも、それは明らかだ。ダイナミックに変化する世界がパーソナル化や生成エージェントなどのシステムと結びついて、新しい物語創作の形を花開かせるところに、大きな可能性がある。つまるところ、(映画の中の)「マインドゲーム」で何よりハッとしたのは、その世界そのものではなく、エンダーに合わせて世界が形作られることだった。

あらゆるゲームのためのAIコパイロット

シミュレーションゲームにおける生成エージェントの利用についてはすでに書いたが、新たなユースケースも現れている。AIがコパイロットとしてゲームに参加する、つまりプレイヤーのコーチングをしたり時には一緒にプレイをしたりするような使い方だ。

複雑なゲームにプレイヤーをオンボーディングする時に、AIコパイロットは欠かせないツールになる可能性がある。たとえばMinecraftRobloxRec Roomといったユーザー生成コンテンツ(UGC)のプラットフォームでは、適切な材料とスキルがあればプレイヤーが思い描いたものをほぼなんでも作ることができる。なんでもできるがゆえに、急激な学習は簡単ではないし、どうはじめていいかわからない人も多い。

AIコパイロットを使えば誰でもUGCゲームのマスタービルダーになれる。テキストプロンプトまたは画像に対応して手取り足取り指示してくれて、ミスから学べるように教えてくれる。これはレゴの「マスタービルダー」の概念に近い。それは、必要に応じて思い描いたものの青写真を描ける稀有な才能を持った人たちだ。

すでにマイクロソフトはMinecraft向けAIコパイロットの開発に取り組んでいる。 ここではDALL-EとGithub Copilotを使い、自然言語プロンプトを通じてアセットとロジックをMinecraft のセッションに注入する。Robloxは「すべてのユーザーをクリエイターにする」というミッションを掲げて、生成AIツールをどんどんとプラットフォームに取り入れている。プログラミングでのGithub Copilotや文筆でのChatGPTを見てもわかる通り、共創作業(コ・クリエーション)におけるAIコパイロットの力は多くの分野ですでに証明されている。

共創に力を発揮することはもちろん、人間によるゲームプレイのデータを学習したLLMは、ゲームのジャンルにかかわらずどのように行動したらいいかを深く理解するようになるはずだ。上手に組み入れることができれば、プレイヤーの友達が不在の時や、FIFANBA 2kのような1対1の対戦ゲームで相手がいない時に、エージェントにその穴を埋めてもらうこともできる。そんなエージェントならいつでもプレイに入ってもらえ、勝っても負けても気持ちよく受け入れ、勝手な文句も言わない。プレイヤー個人のゲーム履歴を学習したエージェントは今あるボットよりはるかに優秀で、自分とまったく同じようにプレイすることもできれば、自分を補うこともできるだろう。

制約のある環境の中で成功を収めている同様のプロジェクトはある。 人気レーシングゲームのForzaでは、機械学習を使って各プレイヤーの運転スタイルを真似るAIドライバーを開発した。これがDrivatarシステムだ。Drivatarsをクラウドにアップロードしておけば、人間のパートナーが不在の時に呼び出してほかのプレイヤーとレースができ、勝てば得点も獲得できる。Google DeepMindのAlphaStarStarcraft IIのデータを最大200年分学習し、eスポーツのプロ選手と競って勝てるようなエージェントを開発している 。

ゲームのメカニックとしてのAIコパイロットは、これまでにまったくなかった新しいプレイモードを作り出すこともできる。仮にFortniteで、すべてのプレイヤーがそれぞれにマスタービルダーの魔法の杖を持ち、プロンプトを通して即興でスナイパーの塔や火の玉を生み出せるとしたらどうだろう? このゲームモデルでは、射撃の技術よりも魔法の杖の使い方(プロンプト)が勝利を左右することになるだろう。

ゲームの中での理想のAI「バディ」は、これまでも数多くの名作ゲームシリーズでも記憶に残る存在になっている。HaloユニバースのCortanaしかり、The Last of UsのElleしかり、Bioshock InfiniteのElizabethしかり。戦闘ゲームではコンピューターボットを打ち負かすのが永遠のテーマだ。Space Invadersの空飛ぶエイリアンにはじまって、Starcraftのcomp stomp(CPUを相手に対戦する遊び方)から発展してその後独自のゲームモードとなったCo-op Commandeもそうだ。

ゲームが次世代のSNSへと進化するにつれて、AIコパイロットはコーチ兼/またはバディ(助っ人)として人付き合いにますます重要な役割を果たすようになるだろう。ゲームにソーシャルな機能を加えるとユーザーを引き止める力が強まることは証明済みだ。友達と一緒のプレイヤーはそうでないプレイヤーに比べて5倍もリテンションが高い。すべてのゲームにAIコパイロットが搭載される日はそう遠くない―「独りだと楽しい、AIと一緒だとすごく楽しい、友達と一緒だと最高に楽しい」の言葉通りに。

おわりに

ゲームへの生成AI利用はまだ初期の段階にある。法的にも倫理的にも技術的にも超えなければならないハードルは多く、ここに書いたアイデアのほとんどが実現するまでにはまだ時間がかかるだろう。開発者がモデル学習に使ったすべてのデータの所有権を証明できない限り、AI生成によるアセットを持つゲームの法的所有権や著作権が誰に帰属するのかはまだはっきりしていない。ということは既存のIPフランチャイズの所有者が製品開発のパイプラインにサードパーティのAIモデルに使うことも難しくなる。

データ学習のもとになる原作の著者やアーティストやクリエーターにどう報いるかもまた、大きな課題だ。現在のAIモデルのほとんどはインターネットに公開されたデータを学習しているが、その大半は著作権で守られた作品だ。ユーザーが生成モデルを使ってアーティストのスタイルをそっくりそのまま再生産できてしまう場合もある。まだこれからの話ではあるものの、コンテンツクリエーターへの報酬を適切に配分する必要がある。

最後に、現代のゲームがグローバルな規模で24日間365日クラウドを運用することが求められていることを考えると、今ある生成モデルではコストが高すぎて無理だろう。コスト効率よく規模拡大するためには、アプリの開発者がモデルのワークロードをエンドユーザーのデバイスに移す方法をなんとか編み出すことが必要になるが、それには時間がかかりそうだ。

今この段階ではっきりしているのは、ゲーム向けの生成AIについて開発者は開発を進めているしプレイヤーも大きな関心を持っていることだ。もちろん話題が先行してはいるものの、この領域に多くの才能あるチームが存在し、時間を忘れて革新的なプロダクトや経験を生み出していることに、私たちはみんな心を躍らせている。

既存のゲームをより速くより安くすることだけでなく、AIファーストゲームの新しいカテゴリーを次々に開拓するところに、チャンスがある。それがどんな形のゲームになるのかは、はっきりとはわからないが、わかっているのはテクノロジーが新しい形のゲームを生み出し続けてきたというゲーム産業の歴史があることだ。そして、そこには巨大なご褒美の可能性がある。生成エージェント、パーソナル化、AIストーリーテリング、動的世界の生成、そしてAIコパイロットといったシステムを使ってAIファーストの開発者が生み出す、はじめての「終わりなきゲーム」がすぐ目の前に来ているのかもしれない。